桜淫

桜淫
姫野百合/著
カキネ/イラスト

だから、きみは淫らだと言うんだ

御神月家の噂を聞いたピアノ教師の慧は、事実上の当主である秋梧に満開の桜の下で身も心も引き裂かれ――。

[crown]立ち読み[crown]
「……僕のことも…殺すの……?」
 首を絞められ、殺された人。あの人と同じように、自分も殺される……。
 秋梧の指に力がこもった。
 脊髄を逆撫でするような戦慄が身体の奥から沸き上がってくる。
 それは、恐怖。しかし、純粋な恐怖と呼べないほどには不確かな雑音を孕んでいる。
 その何かが、恐怖とは少し違う戦慄を連れてきて、慧はかすかに喘いだ。
「……ぅ……」
 それを見て、秋梧は少し驚いたように眉を動かす。
「もしかして……、感じてるのか……?」
 秋梧の親指がじわじわと蠢いて喉元を這った。そうされると、また、妙な痺れが身体の芯を揺らし、くぐもった吐息が溢れ……。
「へぇ……。こんなことで感じるんだ……」
 知らない。知らない。秋梧の言っていることの意味がわからない。
 たまらず首をすくめると、耳を食まれた。ぞくっとするような震えが背筋を走り、慧は小さく悲鳴を上げる。
 そんな仕草もおかしくて仕方がないというように、秋梧は声を立てて笑った。
「あなたは……かわいいね……」
 耳朶を舌が這う。生温かく湿った感触が輪郭を辿るように蠢く。
「や……」
 ただ震えるしかできない慧の頬を、秋梧の冷たい掌が包んだ。
「殺さないよ。慧」


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