まるで捨てられた子犬みたい。人恋しいのに、知らない人に甘えるのは怖くて、どうしていいのかわからないまま、ただすくみあがっている子犬。
苦笑しながら、森生はその子供を見下ろして言った。
「おい。坊主。そこ、どいてくれないか。俺ん家なんだけど入れないだろ」
途端に、その子供は憮然とした顔になった。
さっき見せた気弱な表情とは裏腹の、にらむようにきつい眼差し。
おや? 意外に威勢がいいじゃないか。
目を瞠る森生に、その子供は、まだ声変わりも済んでない甲高い声で叫んだ。
「坊主じゃないもん。オレ、犬だもん」
「はあ?」
「おまえ、これ、読めないのかよ。日本人だろ。日本語くらいわかるだろ」
そう言って、男の子が両手で差し出したのは、胸に下げた不細工な札。
そこには、黒マジックのへったくそな文字で、たった一言、こう書いてあった。
『ひろってください』
森生は足元にうずくまっている男の子をまじまじと見詰める。
あっちこっち好き勝手に飛びはねた寝ぐせだらけの黒い髪。利かん気の強そうな丸い目。ふんわりと子供っぽいラインを描く頬も、つるん、とした腕も、すり傷だらけの足も、どこをどう見ても人間の子供だ。
絶対に、犬の子なんかじゃない。
(ヘンな子……)
森生は心の中でつぶやいた。